腹直筋、錐体筋、外内腹斜筋、腹横筋とは
腹部の筋(muscles of the abdomen)は筋腹の部位により、前腹筋群(abdominis anteriores mm.)、側腹筋群(abdominis laterales mm.)、後腹筋(abdominis posterior m.)と骨盤の筋に分けられる。胸郭と骨盤の間や骨盤底に張って腹腔のまわりと底の壁をつくる。この部分には骨格がないので、腹部内臓・骨盤内臓は筋のみで支えられる。排尿や排便の際には、腹圧を高めるためにこれらの筋が共同して働く。腹圧が高まると四肢からの静脈の還流も妨げられる。また、腹部の筋は背部の筋や腰筋(内寛骨筋群)と共同あるいは拮抗して、脊柱の運動(屈曲、側屈、回旋)を行う。前腹筋群と側腹筋群は肋間神経(下部は腰神経の枝)、後腹筋は腰神経叢の枝、骨盤の筋は仙骨神経叢の枝によって支配される。
前腹筋群(abdominis anteriores mm.)には、腹直筋(rectus abdominis m.)と錐体筋(pyramidalis m.)がある。
腹直筋は腹部前面の白線(linea alba)の両側に左右1対、帯状に伸び、胸部と骨盤間のベルトの役割を果たす。腹直筋は腱画(tendinous intersection)によって中断される多腹筋である。この筋の前後を側腹筋群の停止膜が覆い、腹直筋鞘(rectus sheath)を形成する。脊柱の前屈や側屈に働く。恥骨付近の小筋を錐体筋と呼ぶ。
側腹筋群(abdominis laterales mm.)には、表層から外腹斜筋(obliquus externus abdominis m.)、内腹斜筋(obliquus internus abdominis m.)、腹横筋(transversus abdominis m.)がある。
外腹斜筋は腹部前面では外上側から内下側に走り、その起始が、前鋸筋の鋸状の起始部とかみ合っている。内腹斜筋の大部分は、外下側から内上側に、外腹斜筋の深側を直交するように走り、腹横筋は背部から腹直筋鞘に向かって最内層を横走する。これらの筋は、腸骨、鼠径靭靭帯(inguinal ligament)、肋骨などのほか、腹直筋鞘に停止し、全体として、腹部の緊張をつくり出し、強制呼気時や排便時に働く。また、立位で腰背部の筋に緊張を与えることにより、腰部の安定性に重要な役割を果たしている。
鼠径靭帯は上前腸骨棘と恥骨結節の間に張る腱弓(筋の起始または停止となる帯)である。これにより、体表で体幹と下肢の境界となる鼠径溝ができる。外腹斜筋と腹横筋は鼠径靭帯の上部の停止部付近で裂孔(それぞれ浅鼠径輪、深鼠径輪)をつくる。浅・深鼠径輪の間を鼠径管が通過する。内腹斜筋の下部は鼠径管(inguinal canal )を下行し、精巣挙筋(cremaster m.;挙睾筋)となる。
起始停止と作用
・腹直筋(rectus abdominis m.)
起始:恥骨結節、恥骨結合の前面
停止:第5~7助軟骨、剣状突起の前面
神経:肋間神経、腸骨下腹神経((T6)、T7~T12(L1))
作用:体幹の屈曲
・錐体筋(pyramidalis m.)
起始:恥骨結節、恥骨結合の前面
停止:白線の下部
神経:肋下神経、腸骨下腹神経(T12、L1、(L2))
作用:白線を張り、腹直筋の働きを助ける。
・外腹斜筋(obliquus externus abdominis m.)
起始:第5(6)~12肋骨の外面
停止:腱膜は腹直筋鞘の前葉に入って白線に終わる。鼠径靭帯、恥骨稜。最後部:腸骨稜外唇
神経:助間神経、腸骨下腹神経(T5~L1)
作用:胸郭を引き下げる。体幹を前屈、同側に側屈、反対側に回旋する。胸郭を固定すると、骨盤を引き上げる。
・内腹斜筋(obliquus internus abdominis m.)
起始:腸骨稜前部の中間線および鼠径靭帯の外側部、胸腰筋膜の深葉を介して腰椎の助骨突起
停止:腱膜は2枚に分かれて腹直筋鞘の前後両葉に入り白線に終わる(弓状線より下部では前葉のみ)。最後部:第10~12肋骨の下縁
神経:肋間神経、腸骨下腹神経、腸骨鼠径神経(T10~L1(L2))
作用:胸郭を引き上げる。体幹を前屈、同側に側屈、同側に回旋する。胸郭を固定すると、骨盤を引き上げる。
・腹横筋(transversus abdominis m.)
起始:第7~12肋骨の内面、胸腰筋膜を介して腰椎の肋骨突起、腸骨稜前部の内唇、鼠径靱帯の外側部
停止:腱膜が弓状線から上では腹直筋鞘後葉に、下では前葉に入って白線に終わる。
神経:肋間神経、腸骨下腹神経、腸骨鼠径神経、陰部大腿神経(T5~L2)
作用:第6~12肋骨を引き下げる。
腹横筋の機能と影響
・腹横筋による腰椎骨盤の安定性への関与。→腹圧の上昇、胸腰筋膜の緊張、仙腸関節・恥骨結合への圧迫が必要。
・腹圧を高める。
・第6~12肋骨を引き下げる。
・横隔膜、腹直筋、内外腹斜筋、腰方形筋、骨盤底筋群、多裂筋(胸腰筋膜を介して)と連結がある。
・腰痛。
・猫背、反り腰。→インナーマッスルとアウターマッスルのバランスの崩れ。
・多裂筋、骨盤底筋群の機能低下。
・骨盤後傾位、膝関節屈曲位、膝関節下の痛みがある人、産後の腰痛がある人にアプローチすると良い。
腹横筋の評価とアプローチ
評価
ドローイン(腸骨稜の上のラインを内側へ圧をかけ膨らみをみる。)、圧痛、腹直筋の緊張、体幹の屈曲と伸展
アプローチ
肢位:背臥位
腹斜筋と腹直筋の間で腹横筋に触れ、外側へ開いていくように(身体の曲線に沿ってストレッチしていく)リリースをかける。※リリースがかかるとテンションが抜ける感覚がある。
腹直筋のアプローチ
肢位:背臥位
白線に沿って、圧をかける指を上下に繰り返し動かしていく。みぞおちがあるので、強く圧をかけないように気をつける事。
触察法
・腹直筋
腹直筋の外側縁、腹直筋の内側縁、腹直筋の腱画の順に触察する。
○腹直筋の外側縁
1、触察者は触察部位の外側方に位置する。
2、第5肋骨の前方投影幅の中央部を確認し、ここから臍の高さまで尾方へ引いた線を想定する(想定線1)。
3、想定線1の下端と恥骨結節の外側端とを結ぶ、外側凸の弧状の線を想定する(想定線2)。
4、想定線1の下端に指を置き、後方へ圧迫しながら指を内側方へ移動させる。
※体幹を自動屈曲させると触知しやすい。
5、4で確認した筋腹の外側縁を、想定線1を指標にして頭方へたどる。
※胸郭の前面に位置する筋腹は薄く触知しにくいため、体幹を自動屈曲させた状態で確認するとよい。
※停止付近の筋腹の外側縁は、想定線1より外側方に位置する場合や内側方に位置する場合があるため注意する。
6、4で確認した筋腹の外側縁を、想定線2を指標にして尾方へたどる。
※体を自動屈曲させると触知しやすい。
○腹直筋の内側縁
1、触察者は触察部位の外側方に位置する。
2、第5肋軟骨から恥骨結節までの高さの前正中線に指を置き、後方へ圧迫しながら指を外側方へ移動させる。
※体幹を自動屈曲させると触知しやすい。
○腹直筋の腱画
1、触察者は触察部位の外側方に位置する。
2、腹直筋の筋腹の幅の中央部に指を置き、後方へ圧迫しながら指を頭方~尾方に移動させる。
※体幹を自動屈曲させると触知しやすい。
・錐体筋の外側上縁
1、触察者は触察部位の外側方に位置する。
2、恥骨結節の内側端と臍とを結ぶ線の下1/3の部位を確認する。
3、2と恥骨結節の外側端と結ぶ線上に指を置き、後方へ圧迫しながら指を内側尾方へ移動させる。
※錐体筋の内側縁の位置は腹直筋の内側縁の位置とほぼ一致するが、両筋を触知し分けることは困難である。
・外腹斜筋
外腹斜筋の筋腹の輪郭を、内側縁、上縁、後上縁、後縁、下縁の5縁に分ける。その上縁は、第5肋骨の下縁の位置と、下縁は腸骨稜の上縁の位置とほぼ一致する。
○内側縁
1、被検者は背队位。触察者は触察部位の外側方に位置する。
2、鎖骨中線(乳頭線)と肋骨弓とが交わる部位のすぐ尾方に指を置き、後方へ圧迫しながら指を外側方へ移動させる。
※息を吐きながら腹部をへこませると、外斜筋が収縮し観察および触知しやすい。
3、2で確認した筋腹の内側縁を尾方へたどる。
4、2で確認した筋腹の内側縁を頭方へたどる。
※体幹を反対側に自動回旋させると観察および触知しやすい。
○後上縁
1、被検者は背队位。触察者は触察部位の外側方に位置する。
2、鎖骨中線(乳頭線)と第5肋骨との交点から1横指外側方の部位を確認する。
3、腋窩線(腋窩の中央部から尾方へ引いた線)と第9肋骨との交点を確認する。
4、2と3とを結ぶ前尾方へ凸の弧状の線を想定する。
5、4の想定線と第5~9肋骨との交点に指を置き、各肋骨の長軸方向に沿ってさする。
※この領域の外腹斜筋の後上縁は、前筋の前下縁と隣接する。体幹を反対側に自動回旋させると外腹斜筋が、肩甲骨を自動外転させると(上肢を前方へ付き出させると)前鋸筋が収縮し、両筋の境界を観察および触知しやすい。
6、被検者は腹臥位になり、触察者は触察部位の外側方に位置する。
7、半側骨盤幅の中央部を通る矢状面と第12肋骨との交点を確認する。
8、3と7とを結ぶ線に指を置き、前内側方へ圧迫しながら指を前尾方へ移動させる。
※この周囲の外腹斜筋の後上縁は広背筋に覆われているため、触知しにくい。
○後縁
1、被検者は腹队位。触察者は触察部位の外側方に位置する。
2、半側骨盤幅の中央部を通る矢状面と第12肋骨との交点を確認する。
3、腸骨稜上で上後腸骨棘の後端と上前腸骨棘の前端との中点を確認する。
4、2と3を結ぶ線を想定する。
5、4の線に指を置き、内側方へ圧迫しながら指を前頭方へ移動させる。
※この部位の筋腹はつまんで確認することもできる。
・内腹斜筋と腹横筋
内腹斜筋と腹横筋の筋腹の輪郭を、内側縁、上縁、後縁、下縁の4縁に分ける。その上縁は、肋骨弓から第11肋骨・第12肋骨の下縁に続く線の位置とほぼ一致する。また下縁は、上前腸骨棘と恥骨結節の外側端とを結ぶ線および腸骨稜の位置とほぼ一致する。内腹斜筋の内側縁、腹横筋の内側縁、内腹斜筋と腹横筋の後縁の順に触察する。
○内腹斜筋の内側縁
1、被検者は背队位。触察者は触察部位の外側方に位置する。
2、臍の高さで外腹斜筋の内側縁から1横指内側方の部位に指を置き、後方へ圧迫しながら指を外側方へ移動させる。
※息を吐きながら腹部をへこませると、内腹斜筋が収縮し触知しやすい。
3、2で確認した筋腹の内側縁を尾方へたどる。
4、2で確認した筋腹の内側縁を頭方へたどる。
○腹横筋の内側縁
1、被検者は背臥位。触察者は触察部位の外側方に位置する。
2、上前腸骨棘の高さで、内腹斜筋の内側縁と上前腸骨棘との中央部に指を置き、後方へ圧迫しながら指を外側方へ移動させる。
※筋腹を触知できる場合とできない場合とがある。
3、2で確認した筋腹の内側縁を尾方へたどる。
※徐々に内側方へ向かい、内腹斜筋の内側縁に近づくが、その様子を触知することは困難である。
4、2で確認した筋腹の内側縁を頭方へたどる。
※徐々に内側方へ向かい、臍から1横指頭方の高さで腹直筋の深層へ向かうが触知することは困難である。
※臍から1横指頭方の高さの腹直筋の外側縁と、胸骨体の下端とを結ぶ線が、腹横筋の内側縁の想定位置となる。
○内腹斜筋、腹横筋の後縁
外腹斜筋の後縁と同じ位置である。
ストレッチ
・腹斜筋 肢位:側臥位
1、腰部に枕等を入れ、上部の下肢をベッドから下ろし(前方と後方)、体幹側屈位をとる。
2、骨盤前方回旋と後方回旋にて骨盤と腋窩部を引き離す。
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