多裂筋群(multifidi mm.)とは
背部の筋(muscles of the back)は、浅側にある浅背筋と背部の主要部分を占める深背筋がある。深背筋のうち第2層は脊髄神経後枝の支配する固有背筋群(intrinsic dorsal musculature)で、頭頸部の板状筋群(splenii mm.)と脊柱起立筋群(erec-tor spinae mm.)、横突棘筋群(transversospinales mm.)などに分けられる。
横突棘筋群は脊柱起立筋群のさらに内側、深側にある筋群で、半棘筋群(semispinales mm.)、多裂筋群(multifidi mm.)、回旋筋群(rotatores mm.)に分けられる。さらに深側には棘間筋群(inter-spinales mm.)、横突間筋群(intertransversarii mm.)、肋骨挙筋群(levatores costarum mm.)がある。
多裂筋群(multifidi mm.)は、頸多裂筋、胸多裂筋、腰多裂筋に分けられる。
これらの筋は、実際にはそれぞれが筋膜で独立しているわけではなく、起始・停止が相互に入り組み、特に下部では癒着している。これらは左右が同時に働けば背屈を行い(脊柱をそらせる)、片側が働けば側屈あるいは回旋がおこる。
起始停止と作用
起始:仙骨後面、全腰椎の乳頭突起、全胸椎の横突起、第4~7頸椎の関節突起
停止:第2頸椎~第5腰椎の棘突起
神経:脊髄神経後枝の内側枝(C3~S3)
栄養血管:肋間動脈、腰動脈、外側仙骨動脈
作用:体幹伸展、片側が働くと体幹の反対側への回旋
機能と影響
・腹横筋、骨盤底筋群とともに腹圧上昇に関与。
・脊柱起立筋、大腰筋、回旋筋、腹横筋(胸腰筋膜を介して)と連結。
・腰椎との関連が強い。
→多裂筋の筋力低下、廃用によって脊柱起立筋の過緊張が起きる。
→不良姿勢にて機能低下を起こしやすく、慢性的になると筋繊維が萎縮し脂肪組織になる「脂肪置換」という現象が起こる。
→多裂筋に問題があると腹横筋も収縮できなくなり、インナーマッスルとアウターマッスルのバランスが崩れる。
・腰部のコンパートメント機構
疲労すると筋内圧が高くなる→コンパートメントにより内圧が逃がせない→脊柱起立筋など腰背部の緊張が上がる→体幹全面のインナーマッスルが作用しなくなる。
触察法
1、触察者は触察部位の外側方に位置する。
2、最長筋の内側縁と腰椎の棘突起との間に指を置き、前方へ圧迫しながら内側尾方~外側頭方に移動させる。
※第3腰椎から上後腸骨棘までの高さでは、筋腹は厚くて幅広く、触知しやすい。
※第3正中仙骨稜と第4正中仙骨稜との間の高さ(上後腸骨棘から約3横指尾方の位置)まで存在するが、その下縁の筋腹は薄く、触知しにくい。
評価とアプローチ
評価
体幹可動域、脊柱起立筋の過緊張、ドローイン(腸骨稜の上のラインを内側へ圧をかけ膨らみをみる。)、圧痛など。
アプローチ
肢位:腹臥位(腹臥位が難しい場合は側臥位で行う)
・仙骨部を固定する。腰部から頭部にかけてアイロンをかけるように刺激を入れる。これを5回程繰り返す。硬結部位は重点的に行う。
・腰多裂筋に疼痛がある場合のアプローチ。腸骨陵とL4、5の間を両手(第1指)で圧を加える。頭側~尾側方向へ、張り付いてる筋を剥がすようにスライドしていく。
トレーニング
・肢位:座位
①骨盤を立てて、椅子に浅く腰かける。
②両腕を前方へ伸ばし、身体も一緒に前方へ倒していく。
③前方へ倒したらゆっくり身体を後方へ、元の状態に戻る。
④これを何回か繰り返す。
・ドローイン
肢位:背臥位
①何回か腹式呼吸を行う。
②ゆっくり息を吐いてもらい、限界までお腹をへこませる。
③そのままの状態をキープしてもらい、浅い呼吸を行う。
④③を30秒程度行い、徐々にお腹を元に戻していく。
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